人間の尊厳は暮らしの中で 国際的な人権基準とジェンダー平等

白石理(ヒューライツ大阪所長)
実施日:2013年12月15日(日) 14:00~16:00

人権の国際基準とは

人権は難しい、気がめいる、と考える人もいるようですが、人権は暮らしの中に根ざしたものであり、知っているか知らないかで生き方は変わります。世界人権宣言では「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神を持って行動しなければならない」とされています。とても簡潔ですがひとつひとつの言葉は重いものです。人は一人ひとりが例外なく、かけがえのない存在であること(人の尊厳)が人権の前提となっています。誰にでも、どこにいても、いつでも、同じように認められる権利で、人であるということ以外に条件はありません。「同胞の精神を持つ」ということは「みんな仲良く友だちになる」ということではなく、「人を人として認めて大切にする」ということです。

研修風景1人権は「お互いに思いやりましょう」といった道徳項目ではありません。「教育を受ける権利」「意思に反した結婚を強制されない権利」というようにはっきりしていて、法で守られるべきものです。人権を抑制する法が作られないようにする責任は国(司法・行政・立法)にあります。また、市民・団体・企業には社会の一員として人権を尊重する責任があります。責任を果たしてから人権が生まれるのではなく、責任は人権があるからこそ発生します。人権が侵害されたときに救済を受けられる制度も必要です。

こうした人権の国際基準は、世界人権宣言(1948年)、二つの国際人権規約(1966年)やその他の人権条約、宣言、原則などで成り立っています。例えば労働関係ではILOが作った国際労働基準・原則があります。当然これらは守らなければならないものです。

国際社会におけるジェンダー

ジェンダーは生物学的な性別とは異なり、社会的・文化的につくられる性別のことです。お茶も入れられないことや子どものオムツを替えた経験がないことを自慢に思う男性もいます。「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」といった特定の社会での価値観や、男女の役割の違いにこだわることはジェンダー平等に関わる課題といえます。

ジェンダー平等とはどういった形で現れるのでしょうか。男女平等、女性の社会進出、職場での差別をなくす、家事育児における責任分担、社会のあらゆる場で平等を確保する制度…女性にとって働きやすい社会だけではなく男性にとっても働きやすい社会にすることが必要です。少子化や女性の社会進出が進まないというのは男性の問題でもあります。

性的マイノリティの人権尊重

地球から眺める人(イラスト)ジェンダーを考える時、「人には男と女しかいない(性別二元論)」「男と女が家庭をつくり子孫を残す(異性愛主義)」を前提にしてしまう場合がありますが、その外に位置づけられる性的マイノリティ(LGBT)の人たちもいます。性的マイノリティの人たちは差別や暴力の対象になってきました。

ブラジルのある女性は息子にゲイであることをカミングアウトされ、大変なショックを受けました。彼女は自分の家族にそうした人がいるとは考えたこともありませんでした。しかし、このことを通じて彼女は自分の中の偏見に気づき、「それでもあの子は私の子どもだ」と理解する努力をしました。今では性的マイノリティの人たちの平等を求める運動に関わっています。

性的マイノリティの実態は見えにくいものです。差別される状態では職を失う心配や社会から弾き出される不安があってカミングアウトはできません。私の職場の国連では10数年前からカミングアウトがごく当たり前になってきました。同性のカップルに対しても扶養手当が認められます。それでもやはり宗教的な理由等でカミングアウトが難しい場合もあります。欧米では同性間の結婚が認められるようになってきましたが、アジアやロシアではまだ進んでいません。日本ではそれぞれの人が望む生き方が受け入れられない心配はあるでしょうか。答えは「ある」です。正面切って何もいわなくても陰口をたたかれたり不利益を受けたりする場合もあります。

人権は人がそれぞれの個性・資質・能力を活かして自分本来の生き方を実現し、人としての成長・成熟を達成するためになくてはならないものです。性的マイノリティの人たちが本来の自分になることを社会は助けるべきであって、阻害することがあってはなりません。

「私が欲しいこと」「私の幸せ」は?

研修風景2

「あなたが欲しいこと」や「あなたの幸せ」と聞かれたときどう答えるでしょうか。日本社会ではあまり自分のスタンス(主張)を打ち出さず、人との関係で自分を位置づける人が多いようです。しかし「こうでなければならない」「こうすべきだ」という考えから離れてみましょう。「わがままではないか」「責任を忘れているのではないか」と周囲の批判も気になるとは思いますが、そういったことも忘れて一度考えてみましょう。

自分の幸せを人任せにしたとき、幸せは来ません。「彼は私を幸せにしてくれる」と思って結婚したとしても、彼はあなたの幸せを作り出せません。「あなたの望みどおりの男になる」といったとしても、それもできるはずがありません。

ワーク 「ジェンダーにまつわる気になること」「人権の観点から、どうあるべきか」「解決に向けて何ができるか」をグループで話し合いました。

おわりに

講師の白石さん今日お話したことをもとにみなさんに考えて話し合ってもらいました。仕事と生活のバランス、政府の仕組み、日常生活でジェンダーにまつわることなどいろいろな考えがでました。私が一番感じたのは、仕事と家庭の中でのジェンダーの問題が中心になっているのではないかということです。「家庭の問題は女性にまかせて男は外で仕事」を変えなければ女性の社会進出も進まず子どもも増えません。

子どもをもつ・もたない、結婚をする・しない、といったことを押し付けられずにそれぞれの人が決められるのが人権です。こうした考えを社会全体に広めていくことが大切です。一人の力では難しいため、仲間を作って動かしていく必要があります。その力になるのがすてっぷのような施設です。力になるように働きかけるのもみなさんです。豊中から大阪、大阪から日本と流れがでてくるととてもいいと思います。

解決に近道はありません。時間をかけてさまざまな方法を試すしかない場合もあります。制度や仕組みを視野に入れて変えていく運動も重要です。そのためにはスカンジナビアといった男女共同参画に関して先進的な海外の例に学ぶのも有効です。「こうなったらいいね」から発していきましょう。

「どういう生き方が自分の幸せにとって大切なのか、何が可能なのか」に向けて少しずつ動いていく努力の中にも生きている幸せを感じることができると思います。

白石理プロフィール

白石理ヒューライツ大阪所長。1945年生まれ。
学生の時にアジアの人権運動にかかわり、人権の大切さを経験する。1980年から国際連合事務局人権部、人権センター、人権高等弁務官事務所で人権の仕事にたずさわる。この間、世界の紛争地域や独裁政権の国々で人権侵害の現地調査報告、世界人権会議、国際人権ウェブサイトの立ち上げなどを経験する。2005年国際連合を定年退職。2006年から大阪に単身赴任、アジア太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)所長。
アジア太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)

ページの上へ戻る