職場のハラスメントにどう対応するか

御輿久美子(奈良県立医科大学女性研究者支援センター特任教授、財団評議員)
実施日:2013年9月13日(金)

パワーハラスメントとは

NPO法人アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)を立ち上げ12年たちました。大学も普通の職場もどこにでもハラスメントはあります。ハラスメントとは、いやがらせ、いじめのこと。たが、多くは、いじめをしている本人には自覚がなく、教育指導であると思い込んでいる場合があります。「ミスを叱責された…」「イライラして怒る…」など誰でもおこすことがあるし、受けることがあります。大切なのはごく初期段階でとめておくことです。

「パワーハラスメント」という言葉は15年くらい前から使われるようになり、2012年に国が「職場のいじめいやがらせに関する円卓会議」を開き、パワーハラスメントと名付け報告書を作成しました。職場でのパワーハラスメントの実態を調べたところ「過去3年間に受けたことがある」と回答した人が4人に1人という結果がでました(2012年7月調査)。その結果は、職場の規模、大小かかわらずどこでも同じでした。どんな業種でもどんな規模の企業でも、4人に1人がいやな思いをしているのです。これは身近な問題として対応する必要があると、国としての取り組みが進みました。

パワーハラスメントの実態

パワーハラスメントは、大きく6つに分けられます。

1)精神的な攻撃、暴言

御輿久美子先生(写真)

物を投げる、椅子をける、相手を威嚇する、ミスを大声で叱責する。「給料泥棒」など人格を否定することを言う。部下のミスにきれる。同僚の前で無能扱いし「あなたじゃだめね」と他の人に頼む…。そのようなことを、みんなの前で言われたら近寄らなくなりかえってミスが増え、職場としての問題も発生します。

2)過大な要求、無理なこと押し付ける

終業間際に「これやっといて」と過大な仕事を押し付ける。1人では無理とわかっている仕事を1人でやらせ、休日出勤や夜中までやらせる…。これが続くと「仕事が好きだったけどもういや」と過労やウツへとつながっていきます。

3)人間関係からの切り離し

1人をターゲットにして集団でいじめて辞めさせる。ターゲットになるのがいやなので、いやがらせに加担する。ある日、全員が一斉に挨拶しなくなる。仲間はずれ…。どんなふうにして一斉にそうなるのか不明なのですが、ある日一斉になります。小中学校でもこの「ある日一斉」はあります。

4)個の侵害

独身女性に向かって「結婚は?彼氏はいるか?」、個人の宗教を否定する…。個人のプライベートなことを聴きだそうとします。

5)過小な要求

営業なのに倉庫整理などの仕事を強要された。隔離部屋や追い出し部屋へ入れられた。本人が辞めると言ってないのに、辞める手続きをされた。会社の方針に反対し労働組合をつくったら降格…。このような状況に追い込まれると、本人もつらくなって辞めたり、アル中になったり、つぶれた人もでてきます。

6)「身体的な攻撃」

たたく、殴る、蹴る、胸ぐらをつかむ、髪を引っ張る、頭をこずく…。

このようなパワーハラスメントの問題は、最近になってようやく表に出てきたものです。1990年代後半から海外でもパワーハラスメントは問題にされてきました。「自分がおかしいのかも」と問題にできなかったことでも、表にでることで対処できるようになります。

セクシュアルハラスメントとは

講座風景(写真)

セクシュアルハラスメントとは、受け手がいやだと感じるいやがらせ、性的な誘いかけ、行為、環境のことで、「職場で、出張先で、取引先で、アフターファイブの宴会で、メールで…」などがあげられます。1990年代から問題になりはじめましたが、いまだに全くなくなりません。

セクシュアルハラスメントの行為者となりえるのは「事業主、上司、同僚、顧客、派遣先の社員、取引先の社員」などであり、誘いを拒否すると解雇、降格、減給などの不利益へとつながっていきます。

厚生労働省のデータ(2012年5月31日)によると、以下のように多くの相談が寄せられています。

  • 2011年中に労働者と事業主から寄せられた相談は23,303件
  • その中で労働者からの相談が12,724件
  • もっとも多いのがセクシュアルハラスメント
  • 「解決を助けて欲しい」という相談のうちセクシュアルハラスメントが53.4%
  • 「調停」を求める相談のうちセクシュアルハラスメントが67.9%

今の社会は男性の性的暴力に寛大な男社会であり、痴漢もセクシュアルハラスメントもなくならないのが実情です。

※ 労働者 … 正社員、パートタイム労働者、契約社員など、事業主が雇用するすべての労働者。派遣労働者は派遣元でも派遣先でも労働者となる。

教育現場でのセクシュアルハラスメント

教育現場で起こったセクシュアルハラスメントの例をいくつか挙げます。

  • 国立M大学 … 女子学生に性的関係を強要したとして、男性教授(依願退職)を「解雇相当」の懲戒処分に。(2013年4月27日、読売新聞)
  • 私立K … 女性学生にセクハラ行為をしたとして男性准教授を減給60分の1(6か月)の懲戒処分に。(2007年10月23日、朝日新聞)
  • 公立K大学 … 未成年の学生と飲食し、セクシュアルハラスメントにあたるわいせつ発言をしたとして男性教員を停職3か月の懲戒処分に。(2013年3月28日 産経新聞)
  • 国立U大学 … 男性教授が女性研究者の手を握るなどのセクシュアルハラスメントをしたとして戒告処分に。(2011年11月2日 毎日新聞)
ノート(イラスト)

教授からセクシュアルハラスメントを受けると「勉強したかったのに行けなくなる」など学生の将来も含めた大きな被害につながります。日本の大学のセクシュアルハラスメント対策は整備されてきていますが、まだまだ発生防止に向けて取り組む必要があります。

セクシュアルハラスメント防止のために

セクシュアルハラスメントは事業主の責任ですが、事業主がハラスメントを理解せず、ハラスメントを起こしていることも少なくありません。

ノー(イラスト)

セクシュアルハラスメントに発展する可能性があると感じた場合は、まず「ノー」との意思表示をしましょう。ただ、「それセクハラですよ」と言ってしまうと、関係が悪化して仕事の継続が無理になる場合が少なくありませんので、とっさのときにどう「ノー」と言うか、日頃から考えておきます。もし、悪気なくてしてしまっていることであれば、こちらが嫌だからやめてほしいとの気持ちを伝えれば、相手もやめます。グレーのうちに消しておくことが大切です。どうやって「ノー」と示すか考え、ごく初めの段階で「ノー」を示しておきましょう。我慢できなくなってから「セクシュアルハラスメントだ!」と問題にすると、自分も傷つくし問題が大きくなり、仕事も続けられないことにつながりかねません。

相手に合わせようとしないで、自分の気持ちを素直に伝えます。そして、自信を持って言いましょう。自分が言われたらいやな言葉を使わず「これなら自分でも受け入れられる」と思う言葉を使う練習をしましょう。

これまでは男社会で痴漢も、セクハラも問題にならない社会でしたが、女性が働くようになってから問題となってきました。女性から男性に知らせる。いやなことがあったときに伝えて相手を変えること、エスカレートする前の初期段階で火を消すことが大切です。「ああそうだった。こういうことをしてはいけないんだ。」と互いに思い、嫌な思いをせずに働ける社会をつくらなくてはいけません。

被害を受けてしまったら

おとなしくしていたらどこまでも人権侵害され、はじめに「ノー」と言わないと被害が続くケースがあります。暴言やセクハラ発言をされたと思ったときに「そういう言い方は傷つきます」と嫌な思いを伝えましょう。それでもエスカレートしたら、問題にしていきます。

被害者は組織のトップと話ができない場合が多く、加害者は力が強いので被害者の訴えに対して反撃してくる場合もあります。そんな時はNO(ノー)、GO(ゴー)、TELL(テル)です(「ノー」と言う、行動する・逃げる、電話する・相談する)。そこで踏みとどまって自分ひとりで解決しようと無理をする必要はありません。小さいうちに消す作業をするか、それでもだめなら相談する、逃げる。その職場で働きたいと思っている場合は、火の粉がきたら消す、しんどくなってつぶれそうになったら相談する。闘いは後退も大事です。

自分が100%正しくなければ、ノーミスでなければ被害を受けたとは言えないと思っている方もおられるかもしれませんが、そうではありません。完璧な人はいません。パワハラなどは、小さなミスがきっかけで起こるものです。仕事のミスで給料を引くのは違法行為です。100%正しい人間はいません。ミスだけ責めてもまた同じミスが起こります。会社としては、そのミスをもとに手順を改め同じミスが起こらないような仕組みを考える必要があります。ミスを改善していくことで、会社としてより発展することを考えるべきです。

子育ての悩みについて

講座風景(写真)

子育ての悩みは「誰に相談するか」より「自分が母親としてどう向き合うか」が大事です。母親は、祖母祖父ともちがうし他の母親ともちがいます。自分でどうしたらいいか考え、子どもと一緒に自分を育てましょう。子どもを育てることは、自分が育つことでもあります。5年先10年先、自分はどんな母親になりたいか、どんな女性になりたいか考えましょう。完璧な母親はいないし、ガミガミ言うだけでは子どもはうまく育ちません。自分自身に自信があれば、子どもに問題が起こったときでも対処できます。一緒にやってきたと思えれば、一緒に解決していけるものです。

すすめたい生活習慣

子どもが小さいときは、寝る前10分間子どもと過ごす時間をつくりましょう。絵本の読み聞かせは自然に文字を覚え、中身を覚えます。子どもと向き合うゲーム、ダイヤモンドゲーム、将棋、碁、モノポリーもいいですよ。手加減せず真剣勝負でやると子どもがだんだん能力をあげて、ある時子どもに負けるようになります。朝起きて5分間、親子で四則計算やると、ある時期子どもの方が早く計算するようになります。これは数学の能力が高まります。子どもと向き合う時間は大切です。

また月に1、2回は自分のための時間を持ちましょう。友だちと遊びに行く、映画を見る、おいしいものを食べに行くなど、子どもは誰かに預けて自分のために自分のやりたいことをやります。

子どもと向き合う時間と、自分自身の時間を持つ。無理していい母親になる必要はありません。いい生活習慣つけることをおすすめします。

参加者の感想
  • 前の会社でお局様がいました。あれもパワーハラスメントだったのでしょうか。相手の性格をじっくり観察して、勇気を持って言うことが大切ですね
  • セクシュアルハラスメントいやです。早い段階で防ぐことが大切、相談できる場所があることがわかりました
  • トランプをすると4歳の子どもに負けることがあります。子どもは自信になっているようです
資料
御輿久美子プロフィール

御輿久美子奈良県立医科大学女性研究者支援センター特任教授
一般財団法人とよなか男女共同参画推進財団評議員
2001年に特定非営利活動法人アカデミック・ハラスメントをなくすネットワークを立ち上げ、以降、代表理事として大学等のハラスメントの相談と防止のための啓発・研修、また、加害者に対する意識・行動変革のための研修もおこなっている。

ページの上へ戻る