メディア・リテラシー入門

新開清子、佐々木はるひ(NPO法人FCTメディア・リテラシー研究所)
実施日:2013年8月2日(金)

なぜメディア・リテラシーを学ぶのか

会場風景(写真)

私たちの暮らしはテレビ、新聞、雑誌、電車の吊り広告、インターネットなど様々な情報をもたらすメディアであふれています。私たちはメディアを通して、今世の中で何が起こっているか把握しようとします。しかしそれは現実そのものではなく、編集され加工された現実を見たり、聞いたりしているのです。私たちにとって、なにが重要かを、メディアが定義し、ものの考え方、価値観をつくっています。ですからメディアは、私たちの社会や観価値観の形成に深いかかわりを持っています。

今回の研修参加者には「自分たちのおもいを表現し、メディア制作をする」というプログラムがあります。そのためにもメディアについて学ぶ必要があります。

  1. 私たちはメディアとともに生きています。「知っている」と思っていることはメディアからの情報が多くを占めています。そのようなメディア社会を生きているからこそ、メディアについて学ぶこと(メディア・リテラシー)が必要です。
  2. 自分たちの考えや意見についてメディアを使って表現し、発信していく力を獲得することも大切です。たとえば「シングルマザーがどれだけ大変か」などマスコミではあまり取り上げられることがありません。だからこそこちらから情報を発信する必要があります。
  3. メディアについて学ぶのは、「文字の読み書き」と同じくらい生きていくうえで大切なことです。しかも大人だけではなく子どもにとっても大切な学びです。

どんなことができるようになるか

ではこの活動を通してどのようなことができるようになるのでしょうか。

  1. メディアを分析し、メディア制作を積み重ね試行錯誤するうちに、さまざまな情報を多面的にとらえ、深く考えることができるようになります。これを「クリティカル」な思考と呼びます。
  2. メディアを多角的に読み解くことをとおして、メディア社会を自分らしく生きていくこと「私はこんなふうに生きている」につながります。
  3. 自分の意見を表現する楽しさ、グループで作品制作する楽しさを体験できます。研修参加者にとっては、「子どもを育てながら仕事をすること、子育ての喜びやしんどさ、シングルマザーとして日々感じている気持ち、将来の夢、社会に求めていること」などを、当事者の視点から発信することは、同じ立場の人を励ます(エンパワーする)ことにつながります。

メディア制作の手順

実際にメディア制作をする手順の流れです。

<Step1> メディア・リテラシーを学ぶ

<Step2> 自分たちが発信したいメッセージを考える(企画会議)

<Step3> メッセージに必要な情報を調べに行く(調査)

<Step4> 映像の企画案、構成案をつくる(テーマ、対象、様式)

<Step5> 撮影スタート

<Step6> 編集・仕上げ・発表会

完成した作品を自分たちで見るだけではなく、こちらからの情報発信としてインターネットへのアップもめざします。

メディアはすべて映像言語で構成されている

会場風景(写真)

テレビの番組やCMなどの映像メディアはすべて映像技法と音声技法の組み立てによる映像言語で構成されています。映像メディアを分析するためには、この映像メディア言語の約束事を理解する必要があります。

またメディアは巨大な産業であるという側面を持っています。日本の広告費は年間約5兆7千億円であり、媒体別内訳としてはテレビが約1兆7千億(全体の約1/3) 、インターネットが約8千億(比重が増えている)、新聞が約6千億円(減少傾向) 、プロモーションメディア(屋外看板、交通、電車なかつり、折込、DM、フリーペーパー)が約2兆1千億となっています。

CMの分析をとおして映像言語の基本を理解し、メディアを読み解く方法を学んでいきます。

テレビコマーシャルを分析してみよう

2つのグループに分かれ、『最新StudyGuideメディア・リテラシー入門編』の映像言語分析シートを使って2種類の飲料水のCMの映像言語を分析しました。

活動

会場風景(写真)
  1. 映像技法「編集・映像処理(カット、フェードイン/アウトなど)」「カメラワーク(カメラ位置、アングル、ズーム、移動など)」「画面の色調」「テロップ、ロゴ、字幕」「アニメ、CG」について、各自が映像を見ながら記入シートに書いて、グループで話し合いました。
  2. 音声技法「BGM(種類/楽器)」「ソング(種類/性別)」「音響効果」「ナレーション」についても同じように各自が映像を見ながら記入シートに書いて、グループで話し合いました。
  3. 2種類のCMの映像技法、音声技法のちがいを検討し、それぞれどのように構成され、どのように意味づけられているかを考えました。
  4. グループで話し合った内容を発表し共有しました。

メディア・リテラシーと私

講師からメディア・リテラシーとのかかわりについてお話がありました。

<佐々木はるひさん>

テレビ(イラスト)

私はテレビ放送がはじまった1953年生に生まれました。それから60年、テレビと一緒に成長しテレビが生活の一部として定着しています。自分の子どもが小さいときにテレビとの付き合い方に疑問を持ったことが、メディア・リテラシーを学びはじめたきっかけです。テレビアニメやキャラクター商品に夢中になる子どもを見て、テレビは子どもの思考に大きな影響を与えているのではないかと考えました。そして実際にCMのデータ分析などをするなかCMにも「何気なくではなく大きな意図がある」ことを身をもって感じることができました。FCTはまず「子どものテレビの会」をスタートし「市民のテレビの会」へ、そして「市民のメディア・フォーラム」から「メディア・リテラシー研究所」へと歩んできました。

その流れのなかで、制作者、研究者をはじめいろいろな立場の人たちとの出会いと、話し合いの場といった、新しい世界がありました。そこで多くのことを学び、そして今もメディア・リテラシー学び続けています。

<新開清子さん>

会場風景(写真)

FCTのメディア分析グループに長期にわたり、参加しています。FCT発足から約10年間は、毎年「テレビと家族」「テレビと子どもの人権」など、テーマを設定し、テレビの番組とCMを実証的データに基づき分析し、報告書として、社会に提示してきました。その後も、社会とのかかわりで、今をとらえ、「イラク戦争」新聞報道検証、「東日本大震災」テレビ報道分析などの作業に参加し続けています。

FCTの活動は、私にとって、ライフワークとなり、日常的にも、ごく自然に、メディアの情報に対し、「それはなぜだろうか」「伝えていない情報はなにか」などと考えるようになっています。今後も、このような日常生活のなかのメディア・リテラシーを大切にして、自分の立ち居地を確立していこうと思っています。

研修参加者の感想
  • 普段何気なく流れているCMがどのように作られているかを分析しました。カット数はどのくらいか、カメラワークはどのように行われているか、画面の色調やテロップの使い方などを話し合いながら調べていく作業をしました。初めての講座だったのですが、今まで見たことない視点でCMの映像を見て、みんなで話し合ったりしました。難しくて分からない部分もありましたが、今まで考えたこともなかった事なので面白かったです。
  • いつもなにげなくCMを見ていました。今日みたいに分析したことなかったので新鮮でした。「なんとなくつくっていることはありえない。つくり手が分析して時間帯も計算している」ことがわかりました。
  • CMは不要と思っていましたが、見方をかえると面白い。これからはちゃんと見ようと思いました。
  • 毎日目にしているCMですが、このように細かく分析すると以外とちゃんと見ていないことがわかりました。子どもはCMのセリフや歌をすぐ覚えます。見る方法を教えてもらったので、これからは注意して見ることにします。
  • 今日は研修で初めてCMというものを細かく見ました。いつも番組の合間は長いと感じていましたが、意外と早く、短いものだと改めて感じました。
NPO法人FCTメディア・リテラシー研究所

メディア・リテラシー研究所は、1977年の創立以来、市民がそれぞれの職業や社会的立場を超えて集い、メディアをめぐるさまざまな問題について多角的に考え、世界を視野に議論し、対話をもつための「ひろば」(フォーラム)を創ってきました。FCTフォーラムでは、今日のメディア社会を生きる子どもや女性、シニア市民をはじめとするマイノリティ市民の視座から、今日的なメディア問題を取り上げてきました。

年に1回開催されているFCTメディア・リテラシー研修セミナーは、全国各地から参加し、メディア・リテラシーを体系的に学びます。また、その運営はすべてボランタリーに行われています。

参考文献 『最新 Study Guideメディア・リテラシー入門編』(リベルタ出版、2013年) など。
NPO法人FCTメディア・リテラシー研究所

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