子どもとともに歩む人生設計

大森順子(公益社団法人子ども情報研究センター)
実施日:2013年6月28日(金)

NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西の活動

しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西は、NPO法人になって10年たちました。関西では尼崎、大阪、京都、堺、泉州、西宮、箕面、和歌山など地域ごとにグループがあり、集まっておしゃべり会を開催しています。「調停がうまくいかない」「別れた夫が養育費を払わない」など、相談や情報交換をしています。北海道、岩手、福島、出雲、松山、福岡、沖縄にも当事者会があり、連絡をとりながらそれぞれ独立した活動をしています。私個人では、女性のための離婚相談「まえむきIPPO」を立ち上げ、離婚前のプレシングルマザーの相談を受けています。

シングルマザーの現状を知る

会場風景(写真)

シングルマザーは経済的に厳しい状態におかれています。2011年度全国母子世帯等調査によると平均年間収入は223万円、平均年間就労収入は181万円で月収15万円となっています。平均年間収入と平均年間就労収入の差は児童扶養手当かと思われますが、児童扶養手当を41,000円とすると12か月で48万円。180万円就労+40万円手当=合計220万が平均した生活費といえます。日本の全世帯の平均は550万円、子どものいる世帯は658万円なので、シングルマザーは経済的に厳しいといえます。

シングルマザーの収入はなぜ低いのでしょうか。日本のシングルマザーの就労率は85%と世界でもトップクラスです。外国ではシングルマザーへの手当が手厚い国もありますが、日本は低く抑えられています。養育費の受給率も低く、もらっているのは19%。「養育費の分担」と「面会交流」の問題もありますが、養育費は子どもが育つうえで絶対必要なもの、払わないとはどういう了見なのでしょうか。

日本は女性が働き続けにくい国

日本はもともと女性が働き続けにくい社会です。結婚前は88.5%が仕事をしていますが、結婚したら退職したり正規雇用からパートへと変わります。出産したらやめざるを得ない場合も多いでしょう。家事育児を女性が担うのが今の社会では主流です。産休育休が整っている会社は少なく、あっても続きません。女性が働き続けること、そして女性が一人で子どもを養うことが難しい社会なのです。

非婚シングルの出産も少なく、婚外子は2%(2008年)。先進国は30~50%、北欧は50%が婚外子です。日本は非婚シングルに対する差別があるから少ないのです。またプレシングルマザー(離婚前)の相談にのっていますが、その人たちへの情報もありません。恥の意識「結婚に失敗した、バツイチ」等の偏見、セクシャルハラスメントもあります。

働いているのに経済的に大変なのは、社会の仕組みが原因です。女性が一人で働いて子どもを育てる仕組みになっていないのです。

母子家庭への支援策

母子家庭への支援策は自治体が発行する「ひとり親家庭のしおり」にあります。

  • 経済的支援 … 「児童扶養手当」「母子家庭等医療費助成制度」「母子寡婦福祉貸付金」などがあります。
  • 就業支援 … 「母子家庭就業等・自立支援センター事業」「母子自立支援プログラム策定」「高等技能訓練促進費等事業」「自立支援教育訓練給付金事業」などがあります。「高等技能訓練促進費等事業」は職種が限定されており、「自立支援教育訓練給付金事業」は受講を終了してから給付されるなど使いづらい面もあります。
  • 日常生活支援 … 出張、介護で外泊、母が病気などの場合、収入によって無料から1時間150円でヘルパー派遣があります。この制度を知らない人が多いことと、「ヘルパーが足らない」などの実態があります。ファミリーサポートセンターは1時間800円~900円です。その他、いろいろな支援があるので、支援策を知り使いこなすことが大切です。

子どもはたくましい

今は、子育てをするには困難な時代といえます。母親は孤立させられ、良い母という圧力が強くあり、「子育ては家庭の責任」と言われてしまっています。「子どもが熱を出したので仕事を休みたい」と言うと首になってしまうことが当たり前のようにあります。本来、病児保育は行政がやるべきことだし、子育ては親以外の人もみんなでやることだといえます。うちの職場にも子育て中の人がいて、「いつも子どもが熱を出して私が休むことになり、すみません」と言います。彼女の子どもではありますが、それは社会全体の子ども。本来はみんなでやることを親にやってもらっているからお願いしますと、私は思っています。しかし多くの人はそんなふうには思えないのが現実です。

女性と子ども(イラスト)

「母子家庭の子どもはかわいそう」と母親自身が心配しているかもしれませんが、子どもには生きる力がありますから心配しなくていいと思います。子どもたちに話を聞くと「かわいそうな子と見られるのが一番いや」と思っています。子どもは自分に与えられた役割、存在意義を感じてがんばっています。

ちょっとグレる時期もあるかもしれません。私の娘は不登校で、中学生になると家に帰って来ないという大変な時期もありました。娘から「おまえの存在が一番しんどい」と言われましたし、人によっては「おまえが離婚するからじゃ」と自分が一番しんどいことを言われることもあるかもしれません。もしそう言われても「言われて一番しんどいことを言われることもある」と思っておいてください。その時が来たら「あの時、大森さんが言っていたな」と思って嵐が過ぎ去るのを待ちましょう。子どもは難しい時期もあるけれど、たくましく育っていくものです。

父親との関係づくりはそれぞれちがいます。きっちり会って、養育費も払っているなら、父と子との関係がしっかりとできている場合もあるでしょう。あくまでも父親の対応によります。親以外のおとな、母の友人との関係づくりも大切です。娘が保育園に通っていた頃、近所にゲイの友人がいてOGCというゲイのグループをつくっていました。その友人とOGCのメンバーに保育所の迎えを手伝ってもらっていました。メンバーそれぞれに、ご飯にこったり、遊びにこったり。娘はOGCの迎えが楽しかったようです。娘が子ども生んだとき「お父さんに連絡したろうか」と言ったところ「父はええ、興味ない。OGCのみんなに連絡してくれ」と言われました。

自分の人生を生きる

会場風景(写真)

シングルマザーは一つの生き方です。「自分で自分の人生を生きている」という実感があります。これが自分の人生なのだ、自分で働いてお金を得て、楽しみもみつけ、自分の人生を自分で切り拓く清々しい感じ。働いて子育てして趣味を楽しむ。私には、英会話、サンバ、お酒、映画、海外旅行…たくさん趣味があります。自分で計画して楽しみながら自分の人生を生きましょう。

「自立しろ」といわれますが、それは経済的なことだけではなく自分が困っていることに対してどんな情報をどこから得ればいいか、その情報をどう使えばいいかを知ることでもあります。「困っている。一人では無理。手伝って」と言える、それも自立です。機会があれば近所の人たちに「うち母子家庭よ」と伝え、人間関係をつくる。人と関係をつくりネットワークをつくることも、自立といえます。

世帯人員別世帯数の推移によると、2010年には4人家族の世帯は減り一人暮らしが一番多くなっています。その次に多いのは二人世帯。母子家庭はマイノリティーではありません。たまたまうちは「子どもと私の2人」と思えばいいのです。失敗してもやり直しのきく社会こそ、誰もが暮らしやすい社会なのです。

研修参加者からの質問、感想
女性と子ども(イラスト)

Q.

自分も母子家庭で育ち、母親に「なぜお父さんがいないの」と言って、友だちが両親と出かける景色を見て泣いていました。自分の子どもにそんな思いはさせたくない…と思っていたけど離婚。しかし大森さんの話を聞いて罪悪感がなくなりました。17歳で子ども生んで「ガキが子どもを産むな」とヤジをとばされたこともあります。子どもを中心に考えたつもりだったが、反対に子どもに八つ当たりしたこともあります。私にも夢があるのでそれに忠実に生きていきたいと思います。

大森

自分も母子家庭で育ち、母親に「なぜお父さんがいないの」と言って、友だちが両親と出かける景色を見て泣いていました。自分の子どもにそんな思いはさせたくない…と思っていたけど離婚。しかし大森さんの話を聞いて罪悪感がなくなりました。17歳で子ども生んで「ガキが子どもを産むな」とヤジをとばされたこともあります。子どもを中心に考えたつもりだったが、反対に子どもに八つ当たりしたこともあります。私にも夢があるのでそれに忠実に生きていきたいと思います。

Q.

仕事さがしの不安があります。体調面もしんどく、普通でもしんどいのにプラスアルファ負荷がかかります。事務か?小さい会社は休みにくいか?いろいろ心配です。

大森

体が大変で正社員は難しければ、とりあえず身近なパートから始めてはどうでしょう。生活が成り立たないなら、生活保護と合わせましょう。できれば正社員にかわれるような仕事を見つけ、仕事を少しずつ重ねていくのがいいでしょう。人のネットワークや、人間関係があると仕事の情報も入ってきます。身体をならし、まわりの人との関係をつくって生き抜いてください。

Q.

シングルマザーへの偏見が多い。メール減ったり、かかわりが減ったり、距離をおかれたことも。シングルマザーがいるのは確かなのに、それを救う制度が少ないと思います。新しい仕事を見つけるにもどう探したらいいか、子どもを病院に連れていくこともあるし、保育料も高い…不安なことが多いです。

大森

友だちはどう接していいかわからないだけかもしれません。離婚も多くなっているのにいろいろな面で受け皿が少ないです。国は未だに4人家族を普通の家庭としていますが、「家族」を考えなおさないといけないと思います。子育ての不安もあるけど、自分の趣味、好きなものを大切にすることも忘れないでください。休みだからといっていつも子どもと一緒にいる必要はありません。「子どもがかわいそう」と思う必要はありません。預ければ子どもはそこでまた楽しみをつくります。場をたくさんつくることもいいことです。関係性がたくさんあれば世界も広がります。子どもの世界は無限です。自分が楽しく生きることが、子どもにとってもいいことなのです。

資料
大森順子プロフィール

大森順子25年前離婚し、当時3歳だった娘は今28歳になり子どもを産み、自身は祖母となる。1980年代からNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西の活動に参加。昨年まで同NPOの事務局長を務め、現在は会員。現在、公益社団法人子ども情報研究センターに勤務し、子どもの権利を守る活動や、子育て支援などの活動を行っている。大阪府子ども家庭サポーター、堺市子育てアドバイザーとしても活動。女性のための離婚相談「まえむきIPPO」を個人で立ち上げ、離婚前のプレシングルマザーの相談を受けている。
まえむきIPPO

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