データで見る女性と労働

木戸典子(一般財団法人とよなか男女共同参画推進財団職員)
実施日:2013年8月30日(金)

この研修の主旨は、働く女性が置かれている状況を客観的データで見ることで、「女性と労働」を取り巻く現状と課題を理解することです。今日のキーワードは、「M」「X」「50?」の3つ。

イントロダクション

1) ワーク1:連想ゲーム(8マスのシートを使った3分間ワーク)

「働く」というコトバから皆さんがイメージや連想することを8つ書いてください。

例えば、気持ち、事柄等。深く考えないで直感で。

発表して共有→ 「お金」「しんどい」「人間関係」「辛い」「資格」「やりがい」「継続」「通勤」「生活」「給料」「努力」「能力」「自分のため、家族のため」「いや」「たいへん」等いろいろなキーワードが出てきました。多様な考え方や思考が見えてきましたね。でも、なぜか「楽しい」がないですね。振り返ってみてください、達成感とか働く楽しみもありますよね。

2) ワーク2:働くにあたって

すてっぷで働き始めて三カ月、この間を振り返りながら、「自分自身が働くうえで大切にしていること、大切にしたいことは何?」というテーマで、シートに記入してください。

発表して共有→ 「個人としての確立をしたい」「子育てと両立していきたい」等いろいろな意見が出ました。このように言語化することで、目標や方向性が見えてきますね。

ジェンダー統計を見てみよう(1)

グラフ(写真)いろいろな想いの中で皆さん働いていますが、では、実際に私たち働く女性の置かれている現実は、どのようなものなのでしょう。統計は、昔から鏡にたとえられてきました。

「ジェンダー統計」という道具を使って、本当の姿(格差・差別・偏り)を見てみましょう。

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1)就業率

年齢階級別の就業状況グラフがあります。この男女混合グラフを「男女別グラフ」に再編してみました。ここから、なにが見えてくるでしょうか。

男性は、きれいな台形。女性はM字型(結婚や出産を機に離職し、育児を終えた後に再び労働市場に戻るコース)。これがキーワードの「M」です。男女別にグラフを分けたことで、格差や偏りが露わになります。ここにジェンダー統計の意味があります。

2)女性の労働力率

1975年~2012年の推移グラフから何がわかるでしょうか。

谷底が40年足らずで25ポイント上昇しています。また、谷底が右に移動しています。未婚率や晩婚晩産化が進んだためです。非婚や子どもを待たない選択をする人も増えてきたということもあるかもしれません。

3)共働き等世帯数の推移

これがキーワードの「X」です。

1997年から共働き世帯が上回るという逆転現象になっていて、現在では1000万世帯を超えています。この年はトリプルパンチといって、消費税上げ・特別減税廃止・社会保険料値上げがありました。実はこの頃から賃金水準も低下しており、これが共働き世帯増加の一因とも言えます。M字の底上げがあったのは、こういう社会背景もあるということなのです。つまり、待機児童問題でもわかるように、まだまだ、出産した女性が容易に就業継続あるいは再就業できる保育等の環境整備が整ったといえる状況ではありません。

4)女性の労働力率国際比較

M字型になっているのは、日本と韓国だけで、スウェーデン、フランス、ドイツ、アメリカは台形ですね。

韓国は、日本と似通ったパターンです。女性は結婚したら家庭に入るべきだという価値観が一般的で、男性の血縁が重視され、最近まで男性中心の家制度が存続していました。ただ、クォータ制(女性議員の割当制)の導入、2001年に女性政策を専門に担当する行政機関である女性省が発足(現:女性家族省)する等、日本よりも政策は進んでいる面もあります。しかし、女性の進学率は上昇しているけれど、グラフからもわかるように経済活動が伴ってないという課題があります。

欧米では、1960年頃には女性労働力率は年齢を通じてかなり低く専業主婦が多い社会構造で、1970年代にはまだM字現象もあったのですが、今日では台形型になっています。グラフは上からスウェーデン、フランス、ドイツ、アメリカです。では、なぜ台形になったのでしょうか。

女性と子ども(イラスト)

スウェーデンは、家庭からの女性の解放という理念と経済成長維持のために、国策として、女性の社会進出、女性の就業率の上昇が意識的に図られ、子育てや介護等の面での福祉政策を次々と実現しました。その福祉をまかなうために1960年代から増税政策に転換し、高福祉・高負担の社会(スウェーデン・モデル)を創りました。言い換えると、女性も働かざるを得ない状況となったのです。

フランスは、男女とも週35時間労働が基本で、育児休暇を終えて復職しても「以前と同等の地位を保障する」ことが法定されています。保育ママ制度の充実で預ける選択肢も多く、学校の終了時間も遅いのです。子どもが多いほど課税が低くなる税制や、公立なら高校まで授業料無料であったり、育児手当20歳まで支給されたりと。有給休暇消化率も高く、女性が経済的に自立できる環境が整っているようです。また、同棲等の事実婚状態で子どもを産むカップルが多く、婚外子比率は半数以上です。戸籍制度もなく、社会保障も財産や相続の権利も結婚と同様なので、事実婚や一人親家庭等の多様な家族のあり方に対して社会が寛容で、シングルマザーも働きながら何人も子どもを生み育てることが可能な労働環境と育児支援が整備されています。

ドイツは、「子育ては母親」という社会通念が強い国なのですが、女性のフルタイム就業が奨励されていたため、1990年の東西ドイツ統一後の就業率においては男女差が縮小しました。しかし一方で、高学歴・未婚・フルタイム就業という女性が、両立の困難さから子どもを持つことを諦めて就業しているという二者択一型の課題も指摘されています。

アメリカは、女性もバリバリ働いて当然の国だと思われがちですが、経済の低迷が長引くなかで働く女性が減少傾向にあります。意外と、出産・育児休暇に関しては後進国で、女性が家事・育児や家族のケアの大半を担っています。ただ、日本との違いは、アメリカの男性は、家庭責任の3分の1を引き受けているということです。

ワーク3:働く意義を考えてみる

M字解消というけれど、なぜ働き続けることが大切なのでしょう。

シートに記入、発表して共有。 多かった意見は、経済的自立でした。

確かに経済的自立はとても大切ですね。女性の人生には岐路や予期せぬ落とし穴が多くあります。でも、その突然の変化に対応できる選択肢が多いほど、転んでも起き上りやすいですね。その一つが経済力ですね。それと、別の角度から言うと、働くこと=「社会とつながって生きる」「社会の一員としての責任を担う」という思考も必要だと思います。

さぁ皆さん、今朝起きて職場に来るまでの間に、どのような「社会とのつながり」がありましたか。 →「社会とのつながり」という切り口では、なかなか答えが出ませんでした。

ここで皆さんに伝えたいことは、例えば「朝食を食べた」、実はこれでもう社会とつながっています。つまり、農作物を生産する人、仕入れる人、運ぶ人、宣伝する人、売る会社、そこで働く人、消費する人…。このように、人は、社会とつながらないでは生きていくことはできません。ここにこそ、働く意味があります。

ワーク4:M字を掘り下げてみる

M字には地域差もあります。

全国平均に比べて谷が深い大阪府、さらに豊中市は深いです。
労働力ランキング→ 大阪府は何位?:46位(奈良47位、兵庫45位)
谷の深さランキング→ 大阪府は何位?:5位(大都市周辺) ⇔ 浅い:高知、島根

会場風景(写真)

どんな課題や要因があって、M字の左肩ができるのでしょう。三世代構成世帯が多いとMが浅い、役割分担意識が濃いとMが深い、求人状況の差、保育環境が整備されていない、都会の通勤時間は長い、産業構造の問題等があります。ジェンダーによる固定的役割分担意識、男性の意識、企業の仕組み、保育環境、男性の長時間労働、女性の意識に分けて意見交換しました。

また、豊中市の状況もみんなで考えてみました。参加者からの意見としては、同じ市内でも、地域によって共働き世帯が多いところ、高収入世帯の専業主婦が多いところがあること。小規模の事業所が多く、子育てと両立できるような近くに就職口が少ないこと。希望する保育所も簡単には見つからないこと、などが出ました。

ジェンダー統計を見てみよう(2)

1)就業形態における男女の違い

男性の非正規率は約2割ですが、女性は5割超えで、いまや多数派です。特に、正規雇用は25-29歳がピークで、以降は減少しています。正規雇用に折れ線の右肩はありません。女性の中でも労働の二極化が進んでいます。また、若年層にも非正規が拡大し、生活保護受給も近年増加しています。

2)男性の家事育児参加の国際比較

日本の家事育児参加率の低さが際立っています。これもM字要因のひとつで、家事・育児時間に占める男性の時間割合は日本では10%程度ですが、スウェーデン等は35~40%もあります。

3)男女の賃金格差

一般労働者(パート短時間労働者以外)では、男性100:女性70
男性一般労働者:女性短時間労働者では、100:50
大阪府常用労働者の男性:女性では、100:50

時系列でみると格差が縮小していますが、これは男性賃金の低下が理由です。

実は、もっと格差の大きい数字がありまして、賃金総額格差の男女比は 100:36

1時間当たりの賃金を算出して計算したものですが、これを見ると、日本の女性がいかに稼いでないかがわかりますね。ちなみに、北欧では100:70です。

「50?」これが3つ目のキーワード。

4)ひとり親世帯の状況

全国のシングルマザー数は123万世帯ともいわれています。就労形態は、非正規が多いです。就労収入については、父子世帯の約半分の収入しかありません。子育てしながら仕事もするという時間の制約がある中では安定した仕事に就けず、賃金も低くなりがちです。また、母子世帯の母親は8割以上が働いていますが、さらにその中の8割が300万円以下の収入しかありません。父子家庭との格差はとても大きいです。

ワーク5:子育てしながら働き続けるための「想い・アイデア」

個人でシートに記入してみて、発表・共有、そしてフリートークへ。

分類すると、男性の育児参加、短時間勤務制度の導入、企業サイドの意識や風土、頼りになる地域コミュニティ、訪問育児や病児保育の充実、ワークシェアリング、正社員とパート労働の双方向転換制度、親の助け等、いろいろな意見が出ました。皆さん自身も、この声を現実の社会に届けていきましょう。また、すてっぷの事業を通して、企業や行政にも発信して行きたいと思います。

「女性と経済」にスポットを当ててみよう

出生数と出生率の推移グラフでもわかるように、時代は少子高齢化です。これからはもっと生産年齢人口が減少して労働力不足の時代がやってきます。人口減少により物が売れないことは経済に悪影響を及ぼします。そこで効果大だと言われているのが「女性の労働力」です。

キーワードは3つ。

ウーマノミクス(「ウーマン」+「エコノミクス」を合わせた造語)、ダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランス。ワーク・ライフ・バランスは、「仕事」と「仕事以外の人生」、その両方を充実させるというもの。仕事と私生活の相乗効果・好循環という考え方です。でも、ワークとライフが均衡に50:50でこそバランスがとれているとか、プライベートを充実させたいから仕事はテキトーにというものではありません。仕事と生活、どの時期にどこに重点を置いて生きたいか。自分がどう望むのか。WLBは、まさにその人の価値観や生き方そのものなのです。

おまけプレゼント

長時間お疲れ様でした。今日の研修の「おまけ」として、皆さんにワーク・ライフ・バランスとライフプランを時間軸で考えるためのExcelデータをプレゼントします。手順書に沿って入力していくと、グラフが自動生成するように作っています。生涯賃金や貯蓄額のシミュレーションができるように組んでいます。楽しみながら使ってくださいね。

研修参加者の感想
  • 冒頭の連想ゲームでは、お金以外で自分は何のために働くのか、考え込んでしまいました。
  • データのグラフ化は面白く、自分の位置や環境を知ることができ、とても興味深かった。
  • 女性が働きやすい国になったら、世界に自慢できると思う。
  • 統計を見れば見るほど切なくなってしまったが、声にしないと世の中は変わっていかないので、私たちの苦しみを訴えていかなければならないと思った。
  • みんなの意見が多様だったので、個性の集まりであることを実感した。
  • グラフで見て、現実の生きづらい世の中に不安を感じたが、結婚や出産しても働き続けられるようになればよいと思った。
木戸典子プロフィール

木戸典子一般財団法人とよなか男女共同参画推進財団、事業課長。
均等元年に社会人となる。流通系の上場企業にて、販売、株式法務、経営企画、損害・生命保険等、多様な分野で経験を積む。2002年、学生時代から関心のあった男女平等推進に関わる仕事に携わりたく財団に転職。ジェンダー問題講座、情報誌制作やライブラリー事業の企画・運営、女性労働に関する調査研究事業、女性の起業や再就職支援事業等を担当。現在に至る。

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