知っておきたい“女性の働く権利”と“働く女性の権利や制度”

林誠子(一般財団法人とよなか男女共同参画推進財団理事長)
実施日:2014年1月23日(木)

なぜ、働いて生きることにこだわるのか、なぜ働くことは人権なのか

講師の林さん(写真)

今日の講座は、働くことにこだわり続けてきた私からの皆さんへの「働いて生きてほしい」というメッセージです。

これまで (1) すてっぷで働いてきてよかったこと (2) 働くことで自分の何が変わったか、得られたものは何か (3) 働くことで失うものがあったとすれば何か (4) あなたの親の働く姿から感じたこと (5) 私の働く姿は家族(子ども、親、兄弟姉妹、パートナーなど)にどう映っているだろうか。

きょうは、これを振り返る時間を持ち、その上で働いて生きることを一緒に考えたいと思います。

(1) すてっぷで働いてきてよかったこと

  • 仕事をしながら、ジェンダーについてや法律など講座で勉強できた
  • 簿記、医療事務、パソコンなどの資格を取ることができた
  • 自分がした仕事を評価してもらえて、自信が持てた。
  • 自分が職場であてにされていうことがうれしかった
  • 同期メンバーで語り合えるいいメンバーに出会えた

(2) 働くことで自分の何が変わったか、得られたものは何か

  • 責任感が強くなった
  • 一定の収入が得られた
  • 学歴などで自信がなかったが、自分らしく生きていこうと考えが変わった
  • パソコン技術が向上した

(3) 働くことで失うものがあったとすれば何か

  • 子どもと公園に行くなどの時間がなくなった

(4) 親の働く姿からあなたが感じたことは

  • シングルマザーだった母は朝から晩まで働き眠くても子ども食事は必ず作ってくれた
  • 二日酔いでも、風邪をひいても大人は働かなあかんねんな、大人はたいへんやねんなあと思って見ていた。

(5) 私の働く姿は家族(子ども、親、兄弟姉妹、パートナーなど)にどう映っていると思うか

  • 持病があるのに私は根を詰めて働くので、母が心配してくれる
  • 子どもを抱えて一人なのによう頑張っていると祖父母がいってくれている
  • 初給料のときからお金を家に入れているが、喜んでくれるというより「働くんやから当たり前やろ」と言われた

☆短い時間の振り返りだけでも、このように安心と安全のすてっぷという職場で働くことを通して、自分が変化し成長していっていることを実感してくれていることをうれしく思います。

“女性が働く権利”と“働く女性の権利”

これまでの仕事や暮らしの中で、少し知っていればこんなことにはならなかったのにという悔しい、悲しい経験はなかったでしょうか。

  • 働いていたとき妊娠したら「堕ろして働いて」と言われた。それはできないので仕事を辞めなければならなかった。

これは、本当につらい経験ですね。

この経験の中には、“女性が働く権利”“働く女性の権利”の両方の問題があります。

A. 女性が働く権利を当たり前に

すてっぷで働いてきたことを振り返った中でも皆さんは、
働くこと(労働)は、(1) 食い扶持を稼ぐ(収入を得る)(2) 労働は社会(あるいは職場)に役立ち、生きがいを感じる (3) 労働の中で人は成長することを実感しましたね。これらは、人間として生きる以上誰にとっても必要なことです。だからこそ働くことは基本的人権であり、すべての女性にとって働くことは権利でありだれも奪ってはいけない大切な権利です。ところが、女性が働くことは当たり前でない時期が長く続いてきたのです。

女性(イメージ)
  • 下の左図で労働者のほとんどは男性であり、それが基本で納税者も社会保障の担い手も男性中心という社会のシステムが、続いてきました。年金や健康保険、税制などをイメージしながら右図で見ると支える側の中心は男性であり支えられる側に女性・高齢者・障がい者などがいると想定される仕組みであったといってもいいと思います。
  • 労働者を男性中心から、男女労働者とすることで納税者も社会保障の担い手も倍増することになります。
  • しかも、一人の人間は生涯で、支える側から支えられる側へ、支えられる側から支える側へと立場は変化するものだと思います。今あなたが元気に働いていても仕事を失い保護を受けなければならなくこともあるでしょうし、また職を得て支える側になることもあります。定年を迎え支える側から支えられる側に回ることもあるでしょう。これは、性別に係らずあるのです。
図説(左:労働者、社会保障の担い手、納税者。右:支えられる側、支える側
  • 今、あなたはどこにいたいですか?
  • 支える側のあなたが、支えられる側に行くこともあり、一人の人間は生涯で立場は変化するものです。誰もが齢を取るように。

支える側を一人でも多くするには、まともな賃金、まともな労働時間、まともな社会保障のある労働(ディーセントワーク・・・ILO)を確保することが必要です。とりわけ、女性と男性が、社会の対等な構成員である社会(豊中市、日本、世界が目指す社会)の実現は個人にとってばかりでなく持続可能な社会にとって必要不可欠です。

B. 働く女性の権利にはどんなものがあるのか

女性が働くことを当たり前にしていくためには、働く女性のための権利や保護などを定めた法律があります。

 みなさんの手元に配布した厚生労働省都道府県労働局雇用均等室作成の冊子 「男女雇用機会均等法、育児介護休業法のあらまし」 をご覧ください。

この冊子は、都道府県労働局の雇用機会均等室や近くの労働基準監督署などで無料で手にすることができます。すてっぷのライブラリーにも取り寄せておいています。

今は関係のないことのように思えることも、こんなことがあるということを知っておれば、ことに直面して調べることもできます。

職場での対等な能力発揮の機会の確保、産むことに係る母性健康管理の定め、男女の育児・介護のための両立支援などが法律で定められています。

主なところを見ておきましょう。(順次説明)

これだけは、知っておきたい労働基礎知識

最後に、シンプルに頭に入れておいてほしいことをお話しします。詳しくは、お手元の厚生労働省大阪労働局作成の 「労働基準関係法令のあらまし」 に記載されています。

  1. 労働者を守る最低限のことを定めた法律(労働基準法)がある
  2. ここには、皆さんが、働く入口で知っておく必要がある労働条件の明示や、労働時間のルール、解雇のルールなど守られなければならない最低の基準が決められています。正社員以外の派遣、パート、アルバイト、契約社員なども労働者です
    働くときには、使用者と働く人は、労働契約をします。これは文書で契約することがトラブルを防ぎます。内容をよく確認してサインをし、控えを自分で保管しておきましょう。
  3. 一人では弱い労働者を守るために、労働組合法がある
    労働者は、一人では使用者と向き合うことが困難なことがあります。そこで労働者に組合を作って団結すること、交渉することなどを保障しています。企業別労働組合や、個人で加入できる地域の労働組合などがあり、使用者は組合からの交渉に応じなければならないとしています。
  4. 女性と赤ちゃん(イラスト)
  5. 給与明細はよく見る
    給与明細には、時間外労働の記録や出退勤、社会保険の加入状況など皆さんの働いた記録があり賃金支払いの根拠が記録されています。中には、不当な天引きがあったりもします。よく見ること、きちんと保管しておくことが大切です。
  6. 6か月、1年という単位は、働くうえで重要な単位になることが多い
    年次有給休暇も6か月まではありません。育児休業なども1年以上働いていることが条件になります。
  7. 困ったときの相談機関を知っておく(別紙一覧)
    困ることは、働いていていつ起きるかわかりません。一人で悩まず、たくさんの相談機関があることを知っておくと力になります。すてっぷも重要な相談機関の一つです。
受講者の感想
  • 働く女性の権利講座は、すごくためになりました。今まで知らないで損もたくさんしたと思いました。今まではおかしいと疑問に思ったことでも知らないことが多く言えないこともありましたが、講座を受けてたくさん知ったので損をしない働き方ができると思いました。4月から仕事探しをするとき参考にしようと思います。
  • 自分が「働くこと」について、改めて考えさせられました。私は経済的にも精神的にも自立した生き方がしたいと思います。そのためにも健康である限り働き続けたいと改めて気づきました。
  • 給与明細の見方や産休、育休などの権利について学びました。様々な権利があっても結局自分が知らないと損をしてしまうのはおかしいと思いますが、情報収集は普段から心がけたいと思います。
  • 以前ちょこっとお茶会で教えていただいた男女雇用機会均等法をさらに具体的に、また労働基準関係法令についても教えていただいた。講座では、「すてっぷでは働いてよかったこと」「私の働く姿は、家族にどう映っているだろうか」などたくさんの考える項目があり、すてっぷで働いている今の自分を見つめなおすよい機会になりました。講座の後で出産一時金や出産手当などの話になりましたが、受け取るには知識が必要だと感じました。
資料
林誠子プロフィール

林誠子元中央労働委員会委員。一般財団法人とよなか男女共同参画推進財団理事長。
元豊中市立小学校教員。教員時代は、男女平等の指導および授業開発を積極的に行う。その後、大阪府労働委員会(1994~2002年)、中央労働委員会(2004~2008年)の労働委員として、労使紛争の解決にあたる。内閣府男女共同参画会議議員(2002~2007年)として、第二次男女共同参画基本計画策定にかかわる。2013年4月より一般財団法人とよなか男女共同参画推進財団理事長。教育と労働における女性の地位向上が、ライフワーク。

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